
豪華な会場、感動的なスピーチ、鳴り止まない拍手──。
表彰式の当日は、間違いなく組織の熱量がピークに達します。
しかし、その翌日はどうでしょうか。まるで祭りの後のように静まり返り、一週間もすれば日常業務に追われ、誰もその感動を覚えていない。
多くの企業で、表彰制度はこのような「打ち上げ花火」として消費されています。
企業理念や新しい方針を組織に「浸透」させるということは、一度伝えることではありません。乾いた土に水が染み渡るように、繰り返しメッセージを送り、行動を変え、文化として根付かせることです。
そのためには、表彰制度を単発のイベント(点)として捉えるのではなく、1年という期間を通じて組織学習を促す「サイクル」として再設計する必要があります。
本記事では、経営学のフレームワークを紐解きながら、一過性の盛り上がりを組織の「定着」へと変えるための、表彰制度の循環モデルについて解説します。
なぜ、「伝えただけ」では組織に定着しないのか?
組織変革において、よくある勘違いがあります。それは、「理解すれば、共感し、実行してくれるだろう」という直線的な期待です。
一般的にインナーブランディングのステップは「理解→共感→実行→定着」と左から右へ流れるものと考えられがちですが、実際の人間の心理や組織の力学は、そう単純ではありません。
「頭では理解したけど、行動に移せない」「やってみたけど、うまくいかずにやめた」──現場では常にこうした壁が立ちはだかります。
だからこそ、リンクソシュールでは、組織変革を直線ではなく「スパイラルアップ」のモデルで捉えています。
一度のアプローチで完璧な定着を目指すのではなく、サイクルを回しながら、「認知」と「行動」のレベルを少しずつ高めていく。定期的に必ず訪れる「表彰制度」という機会は、このスパイラルを回すための最強のエンジンになり得るのです。
組織学習の理論に学ぶ「定着」のメカニズム
では、具体的にどのようなサイクルを回せば、組織に変革が定着するのでしょうか。ここで2つの理論的フレームワークを参照します。
一つは、社会心理学者クルト・レヴィンが提唱した「3段階の組織変革プロセス」です。
彼は組織が変わるには「解凍(現状の打破)→変革(新しい行動)→再凍結(定着)」のプロセスが必要だと説きました。
多くの表彰制度は「変革(称賛)」で終わっていますが、重要なのはその後の「再凍結」、つまり元に戻らないように固めるフェーズです。
もう一つは、経営学者・野中郁次郎氏の「SECI(セキ)モデル」です。
これは、個人の「暗黙知」を組織の「形式知」に変え、また新たな「暗黙知」を生み出す知識創造のサイクルです。
表彰制度をこのSECIモデルに当てはめることで、「なんとなく良い行動」を「組織の文化」へと定着させる具体的な設計図が見えてきます。
浸透を加速させる「4つのサイクル」設計
理論を実践に落とし込むために、表彰制度の1年間を以下の4つのフェーズで回すことを提案します。
1. 発見:現場の「暗黙知」を掘り起こす
サイクルは、表彰式の数ヶ月前、エントリー期間から始まります。
ここでは、単に「売上数値」を集めるのではなく、現場に眠っている「暗黙知」を掘り起こすことが重要です。
「なぜその成果が出たのか?」「どんな工夫があったのか?」。エントリーシートやヒアリングを通じて、まだ言語化されていない「良い行動の種」を見つけ出すこと。
これがSECIモデルにおける「共同化」のプロセスです。
2. 形式知化:表彰式で「正解」を示す
表彰式当日は、見つけ出した暗黙知を「形式知」へと変換する場です。
スポットライトを当て、賞状を授与することで、「この行動こそが我が社の正解である」と明確に定義します。
抽象的な経営理念を、具体的な社員の行動エピソードへと「翻訳」して提示することで、参加者は「なるほど、こういうことか」と直感的に理解できるようになります。
3. 拡散:ストーリーで「共感」を広げる
式典が終わった後、ここからが「浸透」の本番です。
表彰された事実(結果)だけではなく、そこに至るまでのストーリー(プロセス)を社内報や動画コンテンツで拡散します。
「あいつはすごい」で終わらせず、「自分にもできるかもしれない」という共感を生み出すこと。これはSECIモデルにおける「連結化」にあたり、成功のナレッジを組織全体に広げるフェーズです。
4. 内面化:次の「行動」へ繋げる
サイクルの最後は、拡散された知見を、社員一人ひとりが自分の業務に取り入れ、実践するフェーズです。
これを促すために、受賞者を「メンター」として登用したり、社内研修の講師に任命したりする施策が有効です。
他者の成功事例を自分のものとして取り込み(内面化)、新たな実践(行動)へと繋げる。そしてその行動が、また次の年の表彰対象(暗黙知)となっていく。
この連鎖を作ることが「定着」の正体です。
まとめ:表彰制度は、組織のペースメーカーである
組織を変える特効薬はありません。あるのは、地道な繰り返しのリズムだけです。
表彰制度が持つ「サイクリックな特性」は、組織にとっての心臓(ペースメーカー)のようなものです。
1年に1回、必ず訪れるこのサイクルに合わせて、新しい価値観を送り出し、現場の血液(行動)を循環させる。
「イベントを成功させる」という視点を捨て、「サイクルを回す」という視点に切り替えたとき、表彰制度は組織変革を定着させるための、最も確実で強力なマネジメントシステムへと進化するのです。
リンクソシュールでは以下のようなセミナーを開催するとともに、個別での支援事例紹介も行っております。是非お気軽にご相談ください。
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